要旨
平成28年に警察庁から全都道府県警察本部に向け通達された文書である生経通報には、動物虐待事犯対応の指導要領が示されており、不適切な対応があれば警察批判を招くおそれがあることや、通報者の心情への配慮、早期現場臨場と捜査の実施などの要点が挙げられている。しかし、動物虐待に係る県警察の対応に市民からは「通報に対応しない」「態度が威圧的」「パトロールのみで実質的な対応がない」など多くの不満の声が上がっている。
昨年9月に那覇市で発生した猫の毒殺事件では、複数回の通報に警察が適切に対応せず、ようやく現場に臨場した警察官の「動物のことで呼ばれる筋合いはない」などの罵声がSNSで拡散され、全国から警察批判を招く結果となった。このような事例は、警察が生経通報の要求事項を遵守していないことを示している。その後警察は捜査に着手したが、小中学校や幼稚園周辺で強毒性の不審物が発見され、猫の不審死や行方不明が相次ぐなど極めて異常な状況にもかかわらず、地域への注意喚起や県内メディアによる報道がされなかったことは、他府県では考えられない事態である。犯行が続く中、通報者はやむなく地域の安全確保及び犯人特定のため、注意喚起や聞き込み、不審物回収などを自主的に行い、猫の死体捜索と保護も行った。再犯防止及び啓発として防犯カメラやポスターの設置、チラシの制作・配布などを行ったのも通報者である。警察はここでも生経通報の指導要領を無視し、事件発覚から1年経った現在も犯行は続いている。
令和4年のうるま市の子猫殺傷事件では、虐待死した猫の死体や負傷猫の存在があり、容疑者の身分・所在などが明らかでありながら、警察はその訴えをなかなか聞き入れようとしなかった。今年8月には、名護市で発見された人為的に内臓を引きずり出された状態の猫の死体について、警察は「損傷が激しく事件性はない」としてすぐに焼却処分し、相談者には「ウサギ入り」とラベルされた袋に入った別の猫の死体が返却された。
このように動物虐待事件に対する県警察の意識は極めて低く、対応のずさんさが目立つため、警察への救援を諦めている市民も多い。加えて犯罪抑止及び啓発、メディア発表への消極さが市民の犯罪への意識を低下させている。このような背景は動物虐待犯罪の発生率を高め、結果として地域の治安を脅かしている。
動物虐待は反社会的行為であり、凶悪犯罪の前兆ともされ、児童虐待やドメスティックバイオレンスとの連動リスクも指摘されている。オーストラリア警察当局のデータでは、レイプや殺人を犯した者の全てのケースにおいて動物虐待の経歴が確認され、アメリカ連邦捜査局は動物虐待の取締りを強化し、その犯罪レベルを軽犯罪から重犯罪に引き上げた。動物虐待と対人暴力の相関関係は、今や決して無視できない深刻な問題となっている。
近年、県内においても猫を主とした動物の虐待や殺傷が頻繁に確認されているが、令和3年から5年の3年間でその検挙件数は僅か4件と非常に少なく、動物虐待者が対人犯罪を引き起こす危険性が常に存在していると言える。さらに、犯罪抑制として県内における街灯や防犯カメラの設置は不十分であり、犯罪増加を招くおそれがある。
平和な社会を築く土台として命を尊重する豊かな心は不可欠であり、沖縄の未来を担う子どもたちにはその心の育成が必要である。しかし、動物虐待事件の頻発や虐待者が子どもたちの隣に存在する環境は、命に対する価値観の形成を阻害するおそれがある。子猫の虐待を目撃した児童が瀕死の猫を抱き締め交番に助けを求めるも却下された事例や、野良猫を見つけると妻子の前でも暴行を加える者、県内各地の学校敷地内で猫の遺体の一部が発見される事件などが確認されている。これらが未解決のまま続けば、暴力が社会に容認される環境がつくり出される。暴力を容認することは、戦争を許すことと同義である。
ついては、県は「命どぅ宝」の真意を改めて見詰め直し、下記事項につき配慮してもらいたい。
記
1 県知事は県警に対し、動物虐待事件への適切な対応を強化するよう指示すること。
2 県警は動物虐待事件を軽視せず、愛護動物の保護に加えて凶悪犯罪の芽を摘むため、ひいては地域住民の安全を守る観点から、犯人の早期検挙を目指し徹底した捜査を実施すること。また、生経通報に記載された内容を再確認し、警察職員に対し改めて教育を行うこと。さらに、動物虐待犯罪の抑止と啓発のため、事件は積極的にメディアで発表し、広く報道すること。
3 犯罪の抑制を強化するため、街灯の増設と防犯カメラの設置を迅速に進めること。 |