要旨
島嶼県である沖縄県では、サトウキビが基幹作物として生産農家や地域社会・経済を支える重要な役割を担っている。本県におけるサトウキビ農業は小規模・零細で、かつ、台風・干ばつの常襲地帯という不利性を抱えているが、「さとうきび増産基金事業」による増産対策や生産回復対策等により、大型化する台風や干ばつ、病害虫等による生産への影響を低減しながら、安定的な生産量を維持している。また、国においては食料・農業・農村基本法が改正され、我が国の食料安全保障の考え方の重要性が再認識されるとともに、再生産が確実に担保される適正価格の形成を目指す法制度の議論が行われ、次期基本計画の策定における施策の具体化により、将来にわたる食料安全保障の確立が図られる見通しとなった。
しかし、今なお続く燃油価格の高騰や急激な円安の影響による生産資材価格の高騰・高止まりが農業経営を圧迫しており、営農継続が危ぶまれる危機的状況に直面している。
ついては、令和6年度のサトウキビ価格・政策の確立に向けて、下記事項につき配慮してもらいたい。
記
1 「糖価調整制度」の堅持と財源確保について
現行の糖価調整制度の安定的かつ持続的な運営が保たれるよう、甘蔗糖企業
の累積赤字の解消等も含めその枠組みを堅持すること。
2 再生産可能な甘味資源作物交付金水準の確保について
サトウキビ生産者の高齢化が進む中、労働力確保や機械化に伴う作業委託費
の増加、肥料等生産資材価格の急激な高騰等によって生産費が上昇し、生産者
所得の確保が困難になっている。サトウキビ生産基盤を守り、多様な担い手等
による増産に向けた機運を一層高めるためにも、諸般の情勢を踏まえ、再生産
可能な交付金水準とすること。
3 さとうきび生産振興総合対策の拡充・強化について
(1)さとうきび増産基金の継続と生産振興対策の万全な予算確保について
さとうきび増産基金(セーフティネット事業)について、事業の継続と併
せて、現場の実態に応じた柔軟な運用を図るとともに、万全な予算措置を講
ずること。また、サトウキビ増産に向けて、甘味資源作物生産性向上事業の
取組要件の見直し、サトウキビの特性に合った事業期間の設定、万全な予算
の確保と併せて、計画的な運用が図れるよう継続措置を構ずること。さらに、
令和7年度末が終期となるさとうきび増産プロジェクトについて、次期に向
けた増産プロジェクトを継続すること。
(2)機械化・農作業受委託体制の整備に関する予算確保について
サトウキビ産地には法定耐用年数を経過した相当数のハーベスタがあり、
担い手である受託組織の育成遅れや単収低下につながっている。サトウキビ
の生産性向上を図るため、ハーベスタ等の高性能機械の導入・更新や株出管
理機、防除機等の小型管理機の導入及び整備等、機械化を進める上で必要な
予算枠を確保するとともに、農作業機械オペレーターや収穫作業員の育成確
保等、農作業機械化一貫体系の確立に向けた支援策を講ずること。
(3)サトウキビ生産の基盤を支える試験研究・技術革新の促進について
みどりの食料システム戦略の目標実現に向け、環境負荷軽減に必要な機械・
設備等への支援を講ずること。また、ICT、GPS等を活用した農作業機
械の自動操縦やドローンなど無人航空機の使用に関する規制緩和等、IT・
スマート農業の普及に向けた環境整備を図るとともに、地域の生産実態に適
した優良品種の育成や病害虫防除技術の確立、サトウキビの高付加価値化に
向けた試験研究予算等の充実・強化を図ること。
(4)土地基盤整備等の促進について
サトウキビの生産性向上と安定的生産を確保するため、農業用水源の確保
及びかんがい排水施設・圃場等の土地基盤整備や、防風・防潮林の整備並び
に土壌条件の改良による地力増進に必要な予算枠を確保するとともに、工場
から出る有機副産物の堆肥化等、環境保全型農業への転換に必要な支援策を
講じること。
4 分蜜糖及び含蜜糖企業の安定操業に向けた支援について
(1)製糖工場・設備の老朽化対策について
甘蔗糖企業の継続的な安定操業は、サトウキビ生産を支える上で不可欠で
あるが、一部の工場では老朽化が著しく、建屋の耐震性と併せて改修で機能
を維持するにも限界があることから、工場の安定操業の確保に向けた新工場
建設や老朽化対策の事業・予算枠を確保し、計画的な整備を図ること。
(2)製糖工場における労働力不足への対応支援について
人材確保や増員に向けた環境整備への支援、また、自動化・集中管理施設
等の整備、併せて環境負荷軽減に向けた機械・設備の改修整備を行うための
支援策を拡充し、十分な予算を確保するとともに、外国人労働者の労働範囲
の拡大など地域の実情に応じた必要な改善を図ること。
5 農業保険(畑作物共済)の充実・強化について
台風や干ばつ等が多発する本県においては、農業畑作物共済(さとうきび共
済)により生産者の減収を補完することで再生産の確保に一定の貢献をしてき
たが、昨今、共済加入率の停滞が懸念されている。サトウキビ生産者の経営継
続性と再生産意欲を確保するため、掛金の負担軽減等、共済加入率の向上に向
けた支援策と制度の改善を図ること。あわせて、収入保険事業の加入率向上に
向けて、生産農家の負担軽減に係る支援策を講ずること。 |