陳情文書表

受理番号第173号 付託委員会文教厚生委員会
受理年月日令和2年9月23日 付託年月日令和2年9月30日
件名 差別禁止条例制定ほか人種差別撤廃条約が県に義務づける積極的反差別措置の実施に関する陳情
提出者特定非営利活動法人 反レイシズム情報センター(ARIC)
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要旨


 1966年成立の人種差別撤廃条約は①人種・民族などルーツにまつわるグループへの②不平等な③効果を持つものを「人種差別」と定義づけ(第1条)、立法を含むあらゆる措置を講じてそれら人種差別を積極的に撲滅することを締約国に義務づけた。また、同条約はその第4条で「差別のあらゆる扇動」(日本政府が留保していない柱書)の撲滅を義務づけているが、それは言論の自由の保障を重視するからこそである。つまり同条約のグローバルスタンダードな考え方は、人種差別の扇動の危険は、立法措置を取ってでも早期に抑え込まなければ、自由と民主主義の破壊を未然に防ぐことはできないというものだ。日本政府は1995年に同条約を批准したが、今日に至るまで同条約が義務づける包括的差別禁止法さえ制定せず、条約義務違反状態を続けており、このことは国連人種差別撤廃委員会から幾度も勧告を受けている。そのため、2016年にいわゆるヘイトスピーチ解消法が成立したが、同法は差別を定義して禁止することなくヘイトスピーチのみに特化して、しかも罰則規定も設けずに「解消」をうたうなど、人種差別・差別扇動の実効的な抑止効果に乏しく、今日まで条約義務違反が解消されないままである。
 近年、日本社会では人種差別、特に差別扇動が街頭やインターネットで頻発するに至り、実際にコリアタウンや民族学校を襲撃したり、極右政党を結成して選挙を通じてヘイトスピーチを扇動するに至っている。また、各種報道や当団体調査から、沖縄県で同条約が禁ずる人種差別と差別扇動が頻発していることは明らかである。それら差別扇動の中には非常に深刻なものがあり、何かのきっかけでヘイトクライムなどの流血の惨事やそれに類する深刻な事件に発展する事態を当団体としても憂慮せざるを得ない。具体的には、5年ほど前から那覇市役所前で継続しているヘイトスピーチ(差別扇動)街宣や、インターネット上にあふれる沖縄戦での集団強制死に関する歴史修正主義に関連したヘイトスピーチと関連する極右による差別扇動活動などを挙げることができる。これら沖縄県内の人種差別・差別扇動行為を放置し続けることは、流血のヘイトクライムを引き起こし生命や財産を危機にさらすのみならず、ひいては自由と民主主義の破壊を招く事態さえ憂慮されると言うべきである。そしてそれら人種差別・差別扇動によって最も被害に遭うのはマイノリティーであることは言うまでもなく、とりわけ人種差別は性差別など他の差別と絡み合い被害を激化させる。
 周知のとおり、人種差別撤廃条約が義務づける人種差別・差別扇動の撤廃は、日本の中央政府だけでなく、地方自治体、つまり沖縄県や県内の各市町村をも拘束する。したがって第1に沖縄県に現時点で差別禁止条例がないこと自体が条約違反だと言える。さらに第2に、たとえ差別禁止条例があろうとなかろうと、同条約が義務づける人種差別・差別扇動の撲滅のための積極的措置は取ることができる。
 ついては、上記条約違反を解消し、速やかに人種差別撤廃条約の義務を履行するための積極的な反差別措置を取るよう、下記事項につき配慮してもらいたい。
                 

1 県において、人種差別撤廃条約が義務づける人種差別(第1条)・差別扇動(第4条)を撲滅するためのあらゆる積極的な反差別措置を可及的速やかに取ること。
2 県において、記事項1のため、人種差別撤廃条約が義務づける包括的差別禁止条例あるいは人種差別撤廃禁止条例を制定すること。
3 県において、記事項1及び2のため、ヘイトスピーチ解消法(2016年)や「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」(2019年)など国内の先例を参照しつつも、それら国内先例が欧米先進諸国では半世紀以上前に制定した最も基礎的な人種差別禁止法がないままヘイトスピーチ対策を行おうとする基本的な制約を抱えている現状を十分に考慮した上で、あくまでも人種差別撤廃条約が義務づける人種差別・差別扇動の撲滅のため、欧米はじめ諸外国の政府・自治体が立法や調査・教育あるいは言論の自由を用いて実効的な反差別措置を取ってきた先例を積極的に参照し、県の実情に合った県独自の人種差別・差別扇動対策を講じること。
4 県において、記事項1のため、深刻な人種差別事件が発生した際には、記事項2の条例制定いかんにかかわらず、首長や県議会が差別に積極的に反対するコメントの発出や、議員が言論の自由を行使して反対コメントを出すなど、差別と断固として闘うという社会的メッセージを発信すること。
5 県において、記事項1のため、県内で発生している人種差別撤廃条約に反する人種差別・差別扇動の実態を調査すること、特に那覇市役所前で数年継続されているものなど最も悪質な差別扇動に関しては行政としてヘイトウオッチ(調査・記録)を行うこと。
6 県において、記事項5の実施に際しては、平和的に市民が取り組んでいるカウンター(反差別の非暴力直接行動)や米軍基地建設反対運動や報道機関への攻撃についても、それが人種差別撤廃条約の言う人種差別・差別扇動に該当する場合は、同条約の定義に照らして判断し、物理的衝突が憂慮されるそれら差別扇動に関しては特に阻止のための強い措置を講ずるとともに、市民の安全を守るために尽力すること。

採択された請願・陳情の処理経過及び結果について(報告)

報告を求めた者知事
報告内容

(処理経過及び結果)
 「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」は、人権及び基本的自由の平等を確保するため、あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策等を、遅滞なくとることなどを主な内容としており、日本においては、1996年に本条約の効力が生じております。
 全ての人々の尊厳を守り、多様性や寛容性を大切にすることは、平和で豊かな社会にとって重要であり、あらゆる差別は許されるものではないと考えております。
 令和5年3月31日には、全ての人の人権が尊重される不当な差別のない社会の形成を図ることを目的として、「沖縄県差別のない社会づくり条例」を公布し、令和5年4月1日に施行しました。
県としましては、本条例の周知に努めるとともに、不当な差別の解消を社会全体として推進していけるよう、引き続き取り組んでまいります。