陳情文書表

受理番号第170号 付託委員会文教厚生委員会
受理年月日令和6年9月25日 付託年月日令和6年10月8日
件名 私宅監置遺構の保存及び琉球政府当時の私宅監置による人生被害の検証を求める陳情
提出者私宅監置遺構保存会
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要旨

 沖縄島北部(ヤンバル)にかつて精神障害者が隔離されていた小屋が残っている。私宅監置という、精神保健の歴史を物語る精神病者監護法に基づく遺構である。母屋から十数メートルの場所に建つコンクリート造りの1坪半ほどの小屋で、食事の配膳口や排せつ場が設けられており、鉄扉には外鍵がかかり、頑丈に閉じ込めていたことが分かる。そこには、当時20代の男性が昭和28年から10年以上にわたって隔離されていた。病気の混乱により地域の安寧を乱すとみなされ、「治安維持の点から監置が必要であります」と、力ずくで閉じ込められた記録や証言等がある。昭和46年の新聞記事では、私宅監置の現場について「動物以下の扱い」と見出しにあるほど、非人道的な人権侵害が明らかな措置だった。現在、私宅監置という制度はなくなったが、精神障害者への差別・偏見がなくなったわけではない。地域の安寧を乱す出来事が起きると、強制的に入院させ、長期隔離することが少なくない。精神障害者が地域から排除され、その人らしく人生を送ることが認められないという点で、現在に通底する問題の源流がある。
 県の施策でもある誰一人取り残さない地域社会を真につくり出すためには、私宅監置によって精神障害者を排除してきた歴史の闇に光を当て、公的な検証を行うことが不可欠だと考える。当時の制度の何が間違っていたのか、何を変えねばならなかったのか、現在に引き継がれている問題は何かなどの検証が、いまだなされていない。隔離などによって暴力的に人生を奪うような過ちを決して繰り返さないために、遺構の保存は極めて大切である。その場に立ち、隔離当事者の痛みや悲しみに思いを巡らせることで、新たな気づきや理解のきっかけとなる。
 私たちは、遺構の保存について家族や地域の関係者と共に検討を進めてきた。遺構は経年による損傷が激しく、保存は容易ではない。私宅監置小屋は鉄扉のさびと腐食、母屋は屋根瓦の一部が崩れて、内部が風雨にさらされている状態であり、崩れかねないところまで劣化が進んでいる。一刻も早く荒廃を食い止め、遺構を保存すると同時に、その場所を精神保健の歴史について学び、自由に見学ができ、体験的に学べる資料館として整備したい。
 戦後、私宅監置は家族や地域の人々が勝手に行ったものではなく、保健所が窓口となり、琉球政府の行政主席の決裁を経た行政手続にのっとって行われた隔離だった。ハンセン病者の隔離や障害者への優生手術などと同様、社会制度がそれを許し、推し進めたことは紛れもない事実である。現代から見れば、差別・偏見に満ち、暴力的排除によってその人の人生を長期にわたり踏みにじる深刻な人権侵害、不法行為そのものである。沖縄の社会状況は大きく変わったものの、私宅監置などの社会問題が十分に検証されることはなかった。一旦、監置となれば弁明の機会はなく、いつそこから出ることができるのか分からないまま、長期にわたり当事者は極限の不安・絶望のうちに地域社会から存在を消され、人生を完全に奪われた。社会が人権侵害の措置を長年続けたこの問題は、積み残されたまま現在に至るのである。
 ついては、下記事項につき配慮してもらいたい。
                 

1 ヤンバルに残る私宅監置小屋を貴重な歴史遺構として保存するため、県として支援、協力を検討すること。
2 私宅監置制度により精神障害者が被った人生被害について、県として情報収集や聞き取り調査、検証に取り組むこと。