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平成12年(2000年) 第 1回 沖縄県議会(定例会)
第 9号 3月30日
伊波 洋一
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沖縄の戦後はこの広大な米軍基地によって犯罪が続き、そして爆音が鳴りやまず、山火事が続き、環境汚染は至るところで噴出し赤土で汚染をされる海となっております。
このような米軍基地の現状に対してきちんと返還を求めて取り組んできた組織が一坪反戦地主会なのであります。このような一坪反戦地主の皆さんを犯罪者よりも下位に置く今回の陳情を採択するとは何事ですか。
陳情は、過去に一坪反戦地主であった者も公職から除外せよと求めているのであります。どんな凶悪な犯罪を犯した者でも、前科及び犯罪経歴はみだりに公開されず、刑期を終えればそのことによって法律上は不利益を受けることはないのであります。まさに今回の陳情は、一坪反戦地主を犯罪者以下におとしめるものであり、一坪反戦地主会及び同会に参加する県民一人一人を著しく侮辱し名誉を傷つけるものであるだけでなく、陳情の趣旨が通ることになれば私たちは戦後の占領下の状態や戦前の治安維持法下の状況に後戻りすることになるのであります。
このような公職からの追放は、戦後の日本では占領下のレッド・パージ、沖縄での瀬長亀次郎那覇市長の公職追放などを思い出させるものであります。
今回の陳情は、特定の思想を持つ人々が公権力を利用して彼らが認めない県民を公職から追放させようとするものであります。そもそもそのようなことが可能だと考える県議会議員がいるのでありましょうか。もしそのような公権力の行使をしようとすれば、直ちに憲法に違反するのであります。
レッド・パージは、占領下の日本でマッカーサー司令部のレッド・パージ政策によって当時の共産党もしくはその同調者を、新聞事業から始まって電気事業、私鉄、鉄鋼、石炭等の基幹産業から始まり民間産業一般に波及したものであります。
当時の最高裁も、判例では特定の党に所属したり特定の信条を持つことを理由に解雇を認めることはありませんでした。
信条による差別については最高裁判例として、昭和48年12月12日の大法廷判決があります。三菱樹脂事件であります。
昭和38年3月に大学を卒業して三菱樹脂株式会社の管理職要員として3カ月の試用期間を設けて採用され、採用の際に学生活動についての経歴の一部を隠していたことで6月に本採用を拒否された事件でありますが、地裁も高裁も解雇権の乱用として解雇を取り消し、特に高裁判決は、憲法第14条の法のもとの平等、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」ということと、労働基準法第3条「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」によって信条による差別禁止が定められているとしたのであります。
残念ながら最高裁判決は、憲法第14条法のもとの平等と第19条「思想及び良心の自由」は、「その他の自由権的基本権の保障規定と同じく、国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので、もつぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。」と後退する判断となったわけでありますが、国や地方公共団体は法のもとの平等により信条による公務員の採用で差別をしてはならないことを明確にしているのであります。
まさに本陳情が求めているものは違憲であるのであります。ですから、本陳情が求める一坪反戦地主や過去に一坪反戦地主であった者を県のあらゆる機関及び県から給与、運営資金など何らかに資金のかかわりのある外郭団体において即刻排除する陳情を採択することは、憲法が規定する国民の基本的人権を著しく侵害するものであります。
憲法は、第10章「最高法規」において第97条で「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」、第98条で「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。」と規定しているように、県議会はこのような陳情を採択してはならないのであります。
最後に、本日、一坪反戦地主会が県議会の陳情採択に抗議をして声明を発表しております。本県議会がこの陳情を採択するような誤りがないために、この声明を明らかにしておきたいと思います。
陳情は、国の施策に反する行為をしてはならない。国の定める歴史観に反してはならないという、まさに「ファシズム宣言」を沖縄県民に押しつけることを求めるものである。 旧帝国憲法は、全ての権利が天皇によって許される範囲でしか享受しえないというものであり、国の政策に反対し、国の定める皇国史観に反対すれば治安維持法によって投獄され、反対意見は封じられ、その結果、戦争への道をひた走っていったのである。 憲法は、過去の歴史の反省にたって、民主主義の基本である思想信条の自由を保障したのである。 今回の自民、県民の会、新進沖縄による陳情採択は、彼ら自らが民主主義の体裁をすらかなぐり捨てて、己のファシズム宣言を行ったに等しいが、さらに到底許されざる暴挙は、沖縄県議会総務企画委員会、県議会本会議で右陳情を採択することによって、沖縄県民にファシズムを押しつけるという事実である。 沖縄県は、国の施策に反対する者は県から排除します。国の定める歴史観には反対しません、沖縄戦における沖縄県民の虐殺、集団死の強要についても国が言うことに逆らいませんというのであり、まさにファシズム宣言にほかならない。 我々は、このような、県民に対する、ファシズム宣言の強要を目的とする議会決議を糾弾するとともに、県民に対して、右決議のもつ危険性を認識し、共に民主主義と憲法を守るため立ち上がることを訴えるものである。 2000年3月30日 一坪反戦地主会
このように訴えております。
私は、昨日オープンした新平和祈念資料館の皇民化教育のコーナーで、フィリピンの子供たちがフィリピンの学校で日本語で教育を受けているその映像を見て驚きました。
皆さん、戦後の日本の歴史はどこから始まったかというとまさに琉球処分から始まったわけであります。琉球処分から始まり、そして沖縄における皇民化教育がその先鞭を切って最終的に沖縄戦にたどり着いたわけであります。私たちは、この沖縄の本会議のこのような陳情採択から新しい戦前の始まりをスタートさせてはならないと思うのであります。
議員各位に本陳情の採択に反対することを求めて討論を終わります。(傍聴席にて拍手する者多し)
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20000109060190